最近よく耳にする「個別最適化された学び」。
子ども一人ひとりに合わせた教育を目指す、素晴らしい理念。
でも、現場の先生たちからすると
「いや、それどころじゃないんだけど…!」です。
今回は、そんな理想と現実のギャップについて、学校現場の視点から少し深掘りしてみたいと思います。
◆ 「30人対1人」で何ができる?
多くの小学校では、1クラスに25〜35人の子どもがいて、担任の先生は基本的に1人。
教室は、まさに小さな社会そのものです。
- 授業中に立ち歩く子
- 友達とのトラブルが頻発する子
- 発達の特性から、指示が通りにくい子
- 家庭の事情で塾に通っていて、授業内容が物足りない子
- 教室から飛び出してしまう子
- 「先生なんか嫌い」と言い放つ強気な子
こんな子どもたちが同じ教室にいる中で、学習指導要領に沿った授業を行い、理解させ、評価まで行う。
それだけでも本当に大変なことなんです。
◆「個別最適化」とは、何を指しているのか?
文部科学省は、「個別最適化された学び」として以下のようなことを掲げています。
- 子どもの興味や関心、理解度に応じて学びを調整する
- ICTを活用して自分のペースで学べるようにする
- 一人ひとりの特性や背景を踏まえた支援を行う
言葉だけ見れば、とても素晴らしい取り組みです。
でも、現実問題として、今の公立学校の体制でこれをどうやって実現するのでしょうか?
◆ 教員に求められる負担は限界を超えている
「空き時間に教材研究をして…」なんて言いますが、そもそも空き時間がない先生も多くいます。
- 授業の準備
- 保護者対応
- 学校行事の準備
- 会議や委員会
- 学年・学級経営の調整
- 支援の必要な子どもの個別対応
さらに、教室内でトラブルが起きれば即対応。
「今日は一日落ち着いて授業ができた」なんて日は、むしろ奇跡に近いと感じる先生も少なくありません。
◆ 「少人数・同じ学力帯」で初めて可能なこと
もし個別最適な学びを本気でやろうと思うなら、こんな条件が必要になるかもしれません。
- 1クラス10人以下
- 同じくらいの学力・発達段階の子どもで構成
- ICTや補助スタッフの充実
- 教員のゆとりと専門性の確保
でも、それは今の公立小学校では現実的ではないというのが多くの現場教員の本音です。
さらに問題なのは、「個別最適化」された指導をしたときに、どう評価するのかという点。
全国一律のテストで評価することが本当に適切なのかという根本的な課題も浮かび上がります。
◆ 理想は否定しない。でも「今できること」を考えたい
「個別最適化」そのものを否定したいわけではありません。
子どもたち一人ひとりが、自分に合った学び方で学びを深めていける未来は、とても素敵です。
ただし、それを実現するには「現場のリソース」「制度の整備」「評価の見直し」が必要不可欠。
今のままの仕組みで「個別最適化」を求められても、現場では疲弊しか生まれません。
だからこそ、まずはこんなところから始めたいのです。
- 少しでもクラスの人数を減らす
- 学習補助員や支援スタッフの配置を増やす
- 教員の研修時間や教材準備の時間をしっかり確保する
- 学校全体で「多様な学び」を受け入れる雰囲気をつくる
◆現場の声は政策に届かない
子どもたちの未来のために、「教育をよくしたい」という想いはみんな同じ。
だからこそ、机上の空論ではなく、現場の声からスタートする改革が必要だと感じます。
「今の学校教育で個別最適化なんて無理」
そう思ってしまうのは、決して諦めや否定ではなく、現場を真剣に見つめているからこそ。
理想と現実の間にあるギャップを、少しずつでも埋めていけると良いなと思います。
教育だけが昭和のままな気がしてなりません。